温泉は、含有成分だけで体に効くのか?
高湯温泉を科学する
1温泉は天然のサプリメント
温泉に浸かると、生き生きと肌が蘇ることは古くから知られている。 しかし、それが温泉に含まれる含有成分だけに因るならば、サプリメントのほうがずっと効くはずである。 現代医学において老化や、がん、高血圧症、動脈硬化症、糖尿病といった生活習慣病は、細胞を酸化させる活性酸素が原因だと考えられている。 温泉には、細胞を錆びつかせる原因となる体内の活性酸素を抑えるサプリメントのような働きがあるのではないだろうか。
温泉の本質がいかに健康と美容に関わっているのか。 単なる含有成分だけでは、もはやその効能は解明できない。 この検証に迫るキーワードは、温泉に含まれる物質の“溶質”ではなく“溶媒”、つまりそれらの成分を溶かす水そのものにある。
2健康寿命を延ばす高湯の“温泉力”
高湯温泉を科学する
温泉は元来、地中深く無酸素状態の環境下で誕生する、いわゆる“還元”(酸素と結合していない)状態の熱水である。 長い歳月をかけ地表に湧出する熱水は、大気中の酸素に触れて酸化し、次第に活性力を失っていく。 これを温泉の“エイジング(温泉の老化現象)”と呼ぶ。 エイジングの速度は含有成分やpH(ペーハ/水素イオン指数)、泉温等によっても異なり、この差は温泉の効能に大きな影響を及ぼすことが分かっている。
高価な薬を入手できなかった時代、代用となった温泉は、薬理作用だけでなく、温熱作用や静水圧作用、浮力作用といった物理的なものに加え、 環境の変化による転地作用など、複合的に人々の心身を癒してきた。 温泉に求めるものとは、これらの作用を通じて自然治癒力を高めて免疫を活性化させ、その含有成分の効果を薬剤以上に高めることにある。 そのためにも、浴槽における源泉かけ流しの利用形態は必須である。
生活習慣病が慢性化している現代、温泉を活用することが健康寿命を延ばすことにつながれば、予防医学としての温泉が新たな役割を担うことになる。
高湯の施設における酸化還元電位
3国内屈指の高品質&還元力
高湯温泉の泉質は「酸性・含硫黄(硫化水素型)-アルミニウム・カルシウム・硫酸塩温泉」(滝の湯源泉)で、含有成分は申し分ない。 今回、さらにその潜在能力を明らかにするために「酸化還元電位(ORP/Oxidation Reduction Potential)」を測定した。 “酸化還元”とは、酸化された状態を元に戻す(電子移動)反応を指す。 女性の肌のシミが温泉によって消えるのもこの作用によって、皮膚の細胞が修復されるためである。 酸化還元電位は、反応の過程で酸化剤(相手を酸化するもの)と還元剤(相手を還元するもの)の濃度変化を示す値で、単位はmV(ミリボルト)。 酸化状態が強いほど「+(プラス)」となり、低くなるほど「−(マイナス)」、つまり還元作用の強さ、抗酸化力の高さを示す。 成分的に酸性の温泉でもORPが「−」の場合、極めて還元力のある温泉ということになる。
地表に湧出したての温泉は、平衡に近いものから還元力の高いものまでさまざまある。 現在、高湯で使用されている主要泉源8本を調べたところ、すべての泉源の平均値がpH2.8という、わが国屈指の酸性泉であった。 しかし、その強い酸性度にも関わらず、ORPは平均「マイナス127mV」。 中でも最も低いのが「玉子湯10番源泉」で、「マイナス145mV」という結果が出た。 これは国内でも最上位ランクとなる、非常に還元力のある温泉である。
玉子湯10番源泉
高湯温泉の主要源泉の酸化還元電位
・滝の湯源泉-123mV
・湯花沢1番源泉-121mV
・湯花沢3番源泉-100mV
・湯花沢5番源泉-135mV
・湯花沢6番源泉-140mV
・仙気の湯源泉-121mV
・玉子湯5番源泉-134mV
・玉子湯10番源泉-145mV
4ありのままの温泉
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高湯温泉のORP(酸化還元電位)値は申し分ない高レベルだった。 しかし、入浴客が浸かるのは泉源(湯元)ではなく、浴槽に引湯された源泉である。 源泉は各施設の浴槽にたどりつく間、空気に触れるだけでエイジングが進む。 ポンプアップでの撹拌がもたらす酸素の混入や、高所に設置した浴槽へ動力で送湯することも、エイジングの要因になる。 その他、加水や加温、浴槽での湯の循環、またそれに伴う塩素系薬剤での殺菌も同様である。 特に塩素については酸化剤のため、元来、還元系の温泉であっても一瞬のうちに酸化系の温泉に化学変化してしまう。
これに対し、高湯温泉はすべてが自然湧出に加え、動力揚湯が一切なく、浴槽まで自然流下で引湯されている。 これは単に高湯が恵まれていただけではなく、400年に亘る高湯の歴代の経営者達が“ありのままの温泉”を守り育む経営哲学を、高い志で貫き通してきたからに他ならない。
ちなみに生き物である温泉は、浴槽の中でも刻々と変化する。 湯口から注ぎ込まれた湯は、浴槽の中で最も離れた場所である湯尻へ流れるだけでエイジングが進む。 高湯の各施設の浴槽におけるこのORP値の差(温泉の老化)を調べたところ、共同浴場「あったか湯」をはじめ、すべての施設内の浴槽において“極めて劣化が低い”、 高い抗酸化力の温泉であることが改めて確認された。 なかでも、泉源から浴場まで60メートルしか離れていない「あったか湯」の還元能力はわずか8%の低下で、ほとんど老化が進まない。 これほど高いレベルで浴槽に到達する温泉は極めて稀である。
5霊泉と呼ばれる理由は活性力
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次に塩素系薬剤を加えて酸化させた水道水に、ペットボトルに詰めて1時間経過した「滝の湯源泉」を混合し、源泉の還元作用(酸化した水道水の錆をとる能力)をORPで15分毎に測定した。 すると、30分後には「プラス582mV」の水道水が「マイナス119mV」に還元されてしまった。 この結果は、高湯の湯が皮膚をはじめ、酸化して錆び付いた体の細胞を修復する力を示している。 しかも高湯の場合、全施設が源泉かけ流しのため、常に新鮮な湯が浴槽に注がれ、湯に浸かっている間はこの突出した還元作用が衰えない。 これこそが、江戸の開湯以来、高湯が霊泉といわれてきた所以である。
さらにその還元力を目でも確認できるよう、水道水を満たした2つのグラスの片方に色のついた“うがい薬”を加え、同様に「滝の湯源泉」を注いだ実験でも、 瞬く間に温泉の還元作用で、酸化した水道水が透明に変化した。 ORP計での測定値は「マイナス100mV以下」。 水道水および、うがい薬中の活性酸素を消去したのである。 このような実験結果は、たとえ源泉かけ流しの温泉であっても、すべてで得られるわけではない。 高湯と他の温泉との違いは、鮮度というより、この“活性”だといえよう。
成分や溶質が濃厚であっても、水そのもの、つまり溶媒に力がなければ効かない薬と同じことである。 活性力のある温泉は、微量な成分でも皮膚から浸透し血管を通じて全身の細胞に運ばれる。 温泉の効用とは、つまり含有成分だけではないのである。
6驚くべき抗酸化力
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「3泊4日プチ湯治モニター」および「2ヶ月通い湯治モニター」の実証実験をするにあたり、 会場となる共同浴場「あったか湯」と「花月ハイランドホテル」の浴槽水のエイジング(老化現象)の推移を測るため、400mlの温泉水を採取し、 同じ条件のもと1時間毎にORP(酸化還元電位)を測定した。 その結果、採取直後と6時間後の数値において、双方ともに抗酸化力に大きな差異は認められなかった。
高湯温泉の抗酸化力の高さは、水道水、ナチュラルミネラルウォーター、「あったか湯」の湯口から採取した温泉水が入った3種類のペットボトルに釘を入れ、 水の錆(酸化)具合を検証した比較実験でも立証された。 水道水とミネラルウォーターは5日目にして錆が発生し、1ヶ月目にはボトルの底に錆が付着したが、「あったか湯」の温泉水は2ヶ月半経過しても透明なままであった。
この結果によってORP値が低く、抗酸化力の強い温泉水は、容易には酸化されないことが確認できた。 高湯温泉の還元力、抗酸化力にはまさに目を見張るものがある。
わが国屈指の療養温泉
7ハイレベルな湯質
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箱根や熱海に代表されるように、一般に湯治は「三廻り二十一日」であった。 一廻り目、つまり7日の入浴で病根をえぐり出し、二廻り目でそれを取り除き、三廻り目で健康な体に回復させるというものである。 しかし、酸性硫化水素泉の強い湯力を持つ高湯では、他の温泉の7日分が半分にも満たない3日で十分だったのである。
従来の成分分析だけでは、温泉の本質を正しく評価できないという観点から行った今回の調査では、老化やガン、糖尿病、高血圧症といった、 生活習慣病の原因となる活性酸素を無害化する高湯温泉の還元力および抗酸化力を検証してきた。 現在、高湯で使用されている泉源8本において、それぞれ現地で調査、測定を行った結果、そのすべてで理想的な自然湧出形態が維持されていることが分かった。 しかも、その還元力は、究極とも思える湯質、還元力のまま地上に湧出していた。 またORP(酸化還元電位)値の低い源泉が、高湯の全10施設の浴槽で、どのような状態で入浴者に提供されているかという検証においても、 すべての施設で高い“還元系”の源泉が維持されており、大半の施設でエイジング(温泉の老化現象)することなく、各浴槽まで送湯されていた。 送湯は動力に一切頼ることなく、地形を利用した自然流下方式が守られているため、温泉の抗酸化力が失われず、酸化されにくい湯質であることも、さまざまな科学的データから実証された。
さらに、高湯の源泉の抗酸化力の素晴らしさは、各施設の浴槽内でのエイジングの検証でも同様だった。浴槽の湯口から湯尻までの間、温泉水は容易にエイジングが進まず、 浴槽内で非常に高い還元力を維持し、常に鮮度の高い湯がかけ流されていた。 泉源では高い還元力を有していても、入浴者が実際に利用する浴槽内でエイジングが進む温泉は多い。 高品質の温泉を保つ高湯は、まさに全国でも稀有な存在だといえる。 あらためて指摘するまでもなく、このことは療養の温泉にとって、最も重要な要素である。 高湯のこのような高い還元力、抗酸化力の基本は、硫化物と水素、鉄イオンUにあるものと思われる。
ハイレベルな湯質を維持している高湯の各施設におけるデータ上の差異は、その特性である硫化水素ガスの抜気への、宿それぞれの対応の違いによるものと推測できる。 いずれにせよ、源泉、および浴槽水の品質のレベルは非常に高く、入浴客の高湯温泉に対する評価と合致することが科学的に検証できたのである。