高湯温泉

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高湯温泉紀行

高湯温泉紀行

夏の浄土平湿原・吾妻小富士と静心山荘の寛ぎ

2018/07/某日 | 静心山荘

雲上の絶景、磐梯吾妻スカイライン

 記録的な猛暑となった今夏。高湯温泉と土湯峠をつなぐ山岳観光道路、磐梯吾妻スカイラインの途中にある「浄土平」(標高1,600m)は、市街地より約10℃も涼しい人気の避暑スポット。ここは美しい景観で人気の「鎌沼」や「景場平」、「一切経山」、「五色沼(別名“魔女の瞳”)」等のトレッキングコースの起点としても知られている。「浄土平」には駐車場やレストハウスを囲むように「浄土平湿原」をはじめ「吾妻小富士」、「桶沼」といった1~2時間程度でまわれる見所も集中し、ドライブがてらの観光にもおすすめ。今回はこの「浄土平」の魅力についてあらためてご紹介したい。

 ちなみに高湯温泉は、福島駅から国道70号線経由で約20km西に進んだ吾妻山の中腹、標高750mの高地にある。スカイラインの北の玄関口でもある高湯温泉は、「浄土平」観光の拠点にも便利だ。
 “日本の道百選”にも選ばれた磐梯吾妻スカイラインの平均標高は1,350m。雄大な吾妻連峰を縫うように走る“空の道”は、全国のバイカーによる国内ベスト6のビューロードにも選ばれ、素晴らしい絶景が楽しめる。
 そのひとつ「つばくろ谷」は必見の景勝スポット。深い峡谷に建つ高さ84mのアーチ橋からは山側に不動滝の姿が、谷側に折り重なる翠の山嶺と福島の市街地が遠望できる。「つばくろ谷」はスカイラインの中でも屈指の展望とあって、駐車場やトイレも完備。紅葉シーズンには平日も多くの観光客で賑わいを見せる(写真は紅葉時のもの)。ここに来たらぜひ、車を降りダイナミックなパノラマを楽しんでいただきたい。
 そこから少し先、「天狗の庭」と呼ばれる見晴らしスポットを過ぎると辺りの雰囲気は一転。緑は忽然と姿を消し目の前に岩だらけの荒涼とした風景が現れる。「硫黄平」だ。ここは、今も活発な火山活動を続ける山の息吹を感じるエリア。周囲は濃厚な火山ガスが立ちこめ駐停車はもちろん、窓を開けることも禁止されている。“生”と“死”が隣り合うその景色は、目と鼻の先にある「浄土平」の名を一層印象付ける。

標高1,600mの天空の花園、浄土平湿原

 連日の猛暑の影響か、到着した「浄土平」は持参した上着も要らない快適な気温だ(笑)。駐車場(自然保護ため有料/乗用車500円)に車を停め、まず向かったのは隣接して木道が伸びる「浄土平湿原」。整備された道の一部はバリアフリーで車椅子にも対応している。縦横に走る木道は勾配も少なく歩きやすいうえ、写真を撮ったり休憩したり、ゆっくり回っても1時間もあれば充分に楽しめる。5~9月にかけてはここから一切経山の噴気や、吾妻小富士に登頂する観光客の姿を仰ぎながら、“浄土”の名の由来となった色とりどりの高山植物が観察できる。
 例年と異なり、今年は早くもワタスゲの見頃がすでに終了。一面の緑の中にマルバシモツケやヤマハバコ、ミヤマアキノキリンソウの白や黄色の花々が楚々と名残の色を挿すのみだ。伺えば、暑さのため今夏は10日程開花が早く、花時も一瞬だったようだ(残念!)。湿原には季節に急かされるように、せわしく花蜜を集める蜂や蝶に混じり、早くもアキアカネの姿も見え、駆け足で過ぎていく吾妻の夏を教えてくれる。
 ちなみに湿原を楽しむなら、まず近くにある「浄土平ビジターセンター」を訪れると便利だ。2017年にリニューアルオープンした施設には、浄土平の成り立ちや生息する動植物の資料が紹介され、高山植物の資料も入手できる。トレッカーのためのコースMAPも用意され、目的地の天気や山の情報についてスタッフが丁寧に教えてくれる。
 センターの隣には“日本一標高の高い”天文台として知られる「浄土平天文台」や、地場食材による季節のランチがいただける「浄土平レストハウス」も併設。目の前に本物の「吾妻小富士」を望む2階のレストランで、ランチにいただいた「吾妻小富士カレー」(800円)は、ライスで山の姿を模したユニークな一品。名産の“さるなし”と“もも”の生ジュースは、すっきりとした甘さで涼しげな夏の味わいだった。

圧巻の絶景、迫力満点の吾妻小富士へ

 腹ごしらえを済ませ次はいざ!「吾妻小富士」へ。山への登山口は駐車場向かい、道路を渡った場所にある。階段状の急な登山道を額に汗して登ること約15分。山頂に到着!
 直径約500m。絶壁の高さ約70m。目の前に広がるのは何度見ても飽きない大迫力の超絶景!富士山を思わせる均整のとれた姿からその名が付いた「吾妻小富士」は、約6000年前の噴火で誕生したカルデラだ。現在、火口湖に水はなく、ゴツゴツとした砂礫で覆われた周囲は、どこか違う惑星に来たかのような(笑)錯覚さえ覚える。
 ちなみに火口湖の周囲は約1.5km。60分程で一周できる。山頂で目の前の景色だけを楽しんでの下山もいいが、時間があるならぜひ火口をひと巡りしてみることをおすすめしたい。火口壁は狭いところで幅3~4m。下を覗き込めば足元がすくむ絶壁で道は砂礫で滑りやすい。とはいえ、周囲は胸のすく360度の大パノラマ!眼下にはジオラマのような浄土平湿原や福島の市街地、運がよければ壮大な雲海にも出会える。強風が吹く山頂は肌寒く上着の持参は必須だが、その程度の軽装でこの景色が楽しめる場所はそうそうないだろう。
 山を下り道路沿いに歩いた先には「桶沼」へと続く散策路も伸びている(浄土平湿原からのルートもあり)。同じ火口跡の「桶沼」は、コンパクトながらも浄土平で最も深い約13mの水深を誇り、美しいコバルトブルーの色が特徴だ。「桶沼」は沼のほとりまでは近付けず、山林を10分程登った展望台から眺めることができる。深い森に抱かれた水鏡に映る四季折々の風景は神秘的で、ダケカンバやナナカマド、カエデなど周囲の落葉樹が奏でる紅葉の美しさは、まさに秋の宝石のよう。展望台にはこの吾妻の自然を愛した歌人、斎藤茂吉が1916(大正5)年、高湯温泉の宿の主人に残した歌の歌碑も建立されている(詳細は高湯温泉の公式サイトを参照)

大人の夏時間にひたる、静かの山荘

 高湯温泉に戻り、向かった宿は馴染みの「静心山荘」。ここはオーナーご夫妻が2人できりもりする、客室数わずか4室の知る人ぞ知る小宿。もとゴルフ場とスキー場だったという、自然勾配を生かした敷地にひっそりと建つログハウス風の宿は、客のリズムに寄り添う素朴なもてなしと女将さんの絶品手料理、そして高湯ではここだけという珍しい“ぬる湯”で常連客の心を掴んでいる。宿の看板犬のムサシは、人間でいえばもう100歳近い老齢。足腰も弱くなった最近は客を出迎え擦り寄ってくることもなく、穏やかなまなざしで私と連れを迎えてくれた。辺りは宵の気配が近づく黄昏時。いつの間にかヒグラシから虫の音へと、舞台音楽も移り変わっている。ここで過ごす夏の夕暮れは、風が運ぶ土の匂いも、夕映えに照り映える翠の色もどこか郷愁を誘う。
 「静心山荘」の浴室は、母屋から長い渡り廊下で繋がった階段を登った先にある。風呂は男女それぞれ内湯のみ。小宿ゆえの特権か、貸切状態で楽しめることも多い(本日も!)。私邸気分で庭に面した窓を開け放ち、露天風呂気分で過ごす贅沢。宿の源泉温度は、高湯ではかなり低い約44℃。浴槽内だと40度前後の“ぬる湯”で思わず長湯をしたくなるが、そこは成分の強さを誇る高湯。湯あたりには、くれぐれもご注意いただきたい(笑)。
 そして、この宿の楽しみは湯だけにあらず。女将さんが愛情込めて作る夕食は、サプライズと懐かしさが同居する無国籍の創作家庭料理。手の込んだ保存食から素材を活かしたシンプルなひと皿まで、終始、飽きさせない味わいは食べ応えも満点。楽しさとおいしさに語らいが止まらないひとときが、今夜もあっという間に過ぎてゆく。
 就寝前には宿の主人に断りを入れ、月を仰ぎながら夫婦水いらずのふたり風呂を満喫(笑)。湯上りのほてりを、高原の夜気で冷ます。ちなみに客室にエアコンはない。高地にある高湯は、夏でも朝夕はだいぶ涼しい。うっかり窓を開けたまま寝て、風邪をひかないようご注意を(笑)。
 連日の熱帯夜から久々に開放され、熟睡がもたらした思わぬ早起きがくれた美しい朝焼けのご褒美。そのまま緑眩しい庭へ連れと繰り出してみる。自生するリョウブの白い花房も、今年はあふれんばかりの大歓迎ぶりだ。腹を空かせて迎えた朝食では、またもやマナーを忘れさせる(笑)美味さに舌鼓し、チェックアウト前には再び、名残のひと風呂へ(笑)。この寛ぎと内容で一人8,600円とは、まさにたまらないコストパフォーマンスだ。

 ちなみに宿の坂を下りたところには、人気の共同浴場「あったか湯」もある。風呂は男女別。いずれも露天風呂のみで“木造り”と“石造り”の2つ。さらにプライベートで楽しめる貸切風呂もある。ここの営業時間は朝9時から夜21時まで。日帰りでの利用はもちろん、宿泊客が宿の夕食後に外湯感覚でぶらりと行けるのも魅力だ。館内はバリアフリー対応で入浴料も250円とお手軽。行楽のプランにもおすすめだ。(詳しくは公式サイトへ)
 うだる暑さが続く夏。とはいえ麓よりひと足早く秋の気配が訪れる高湯では、それさえもやがて感傷を誘う季節の思い出になる。この地に本格的な秋が訪れるのは例年10月中旬頃。猛暑がもたらす今年の紅葉は、どんな物語を見せてくれるだろうか。その時季、鮮やかな夏の思い出を胸に、待ち焦がれた手紙を受け取るような気持ちでまた訪ねてみたい。

■磐梯吾妻スカイライン
最高標高は1,622m。1959(昭和34)年に開通した、高湯温泉と土湯峠を結ぶ福島県有数の観光道路。今なお噴火している一切経山をはじめ、樹林に囲まれた噴火口跡の桶沼や浄土平の湿原など、火山が創り出した荒々しい景観と豊かな植生は、春の“雪の回廊”から秋の紅葉まで、ドライブやツーリングの人気スポット。道沿いには上靖氏が命名した「吾妻八景」に代表される景勝地がある。

★福島県スカイライン交通情報
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/41310a/bandaiazumaskyline.html

◇磐梯吾妻スカイラインが「世界で最も美しいツーリングロード10」で紹介されました
http://www.bes.or.jp/joudo/blog/detail.html?id=7087

※通行料は恒久的に無料化されました
※定期的な火山ガス濃度測定により、基準値を上回った場合は直ちに通行規制となります
※例年11月~翌年3月までは冬期通行止め(浄土平のレストハウス、天文台、ビジターセンターも冬期休館)


◇通行可能時間
高湯ゲート~浄土平 7:00~17:00 
土湯ゲート~浄土平 7:00~17:00 
※17時以降から翌7時までは夜間通行止め

◇沿道の見どころ
・雪の回廊:再開通日から5月上旬
・新緑:5月上旬から6月中旬
・紅葉:浄土平(9月下旬~10月上旬)
    天狗の庭・双竜の辻・湖見(うみみ)峠(10月上旬)
    つばくろ谷・天風境(10月中旬)
    白樺の峰・国見台(10月下旬)
問い合わせ/0242-64-3478(福島県県北建設事務所 吾妻土湯道路管理所)
      024-591-1125(高湯温泉旅館協同組合)

◎つばくろ谷
磐梯吾妻スカイラインにある「吾妻八景」のひとつ。不動沢滝のある深い谷に2000(平成12)年に新たに架けられたアーチ橋、不動沢橋は長さ170m、谷底までの高さ84m。紅葉の名所として知られ、橋上から眼下に望む光景は圧巻。まるで車が宙を駆け抜けていくように見える。周辺には駐車場や展望台、トイレも完備されている。

◎天狗の庭
「つばくろ谷(不動沢橋)」から最高地点付近の浄土平方面へ向う途中にある景勝地。「吾妻八景」のひとつ。天狗がここで舞い遊んだという言い伝えが残る大岩が点在する緩やかな斜面には、吾妻小富士の姿や色とりどりの絨毯を敷き詰めたような紅葉の大パノラマが広がり、遠く福島市街も見渡せる。

■浄土平
磐梯朝日国立公園の吾妻連峰にある山岳景勝地。「日本の道100選」にも選ばれている観光道路、磐梯吾妻スカイライン(全長29km ※11~3月は閉鎖)の途中に位置する湿地帯で、一切経山と吾妻小富士に挟まれ、辺りは噴火による火山礫に覆われている。夏の高山植物をはじめ秋の紅葉が素晴らしく、シーズンにはダイナミックな景観と可憐な植物の姿を求めた多くの人々で賑わう。自然探勝路の起点となっている標高約1,600m付近には駐車場(有料)も整備され、ビジターセンターの他、レストランや売店もあるレストハウスや天文台もある。
※浄土平周辺は風向きによって火山性ガスが滞留する場合があります。ビジターセンター等でも随時注意を呼びかけていますが、お出かけの際は事前確認を行ってください。

◎ビジターセンター
住所/福島市在庭坂字石方1-4 吾妻・浄土平自然情報センター内
TEL/024-591-3600
営業時間/9:00~16:00 ※冬期休館
http://www.bes.or.jp/joudo/vc/

◎レストハウス
TEL/0242-64-2100 ※開館期間のみ
   《024-525-4080(福島県観光物産交流協会)》 
http://www.tif.ne.jp/soumu/zyodo.htm

◎浄土平天文台
住所/福島市土湯温泉町字鷲倉山浄土平地内
TEL/0242-64-2108 ※開館期間のみ
   《024-525-3722(福島市観光課)》 
開館時間/9:00~16:00 ※冬期休館
休館日/月曜(祝日の場合はその日以降の平日)
入館料/無料
http://www14.plala.or.jp/jao/

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