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高湯温泉紀行
高湯温泉紀行
秘蔵のぬる湯と創作料理、静心山荘
2015/03/某日 | 静心山荘
「静心山荘」は、その名がすべてをあらわす、まさに静けさと向き合う秘蔵の湯宿。玄人ファンが多いことでも知られる宿は、吾妻屋の先にある坂道を100m程登った先にひっそりと佇んでいる。アプローチは車1台がやっと通れる程の道幅で、雪が迫る冬は急カーブで身動きができなくなることもあるらしく、何度か重機による救出劇?(笑)が行われたこともあるという。
山の斜面に建つ宿は、幾つかのログハウスが廊下で繋がる造りだ。特徴は何といっても自然林を擁する4,000坪もの広い庭だろう。緑の季節には別天地のような美しい景色に包まれ、爽やかな高原の風のなか、屋外での食事も楽しめるという。
気になる風呂はこちらも内湯のみ。場所は母屋から少し離れた浴室棟にある。入浴料は大人400円。気さくな館主に案内されるまま、勾配のある階段をしばらく登った先で私たちを待っていたのは、無駄なものを一切排した端正な面持ちの檜風呂だった。湯船の広さは3~4人程度。ゆらゆらと冬木立を水面に映し込む湯は、濛々と湯煙を上げるこれまで目にしてきた高湯の風呂とは対照的な物静かさで、一篇の詩のような物憂げなその姿は一目で虜になる。早速、どぼんと身をあずければ、これが人肌のような“ぬる湯”。高湯にこんな風呂もあったのかと、宝箱を開けたようなうれしさがこみ上げる。湯温が低いためだろうか。気付けば湯口は源泉を上から落とす造りではなく、浴槽奥の木囲いの中から静かに注がれているようで、これが静かな湯の佇まいを奏でている。まさに“いで癒”とでも呼びたくなるトロリとした温もりに、思わず鼻歌交じりの長湯を楽しんでしまった。
後から伺った話によれば、「静心山荘」は100m程先にある独自の泉源を使用しているとはいえ、源泉温度が44度程度しかなく、それを引湯した浴槽内の湯温は40度前後だという。これを熟知している常連が、定期的に訪れては長湯を満喫していくとのこと。湯船の底には一週間程で数センチもの湯の華が厚く堆積し、密かに持ち帰る客もいるとのことだった。
客室数6室という「静心山荘」は家族的なもてなしも定評で、食事時間も宿泊客の都合に配慮してくれる。初めて訪れた客にも一切吠えることなく、愛くるしい瞳で擦り寄ってくるマスコット犬の“ムサシ”も、ファンが足を運ぶ理由のひとつらしい(笑)。こちらでも午前10時から午後3時まで部屋で寛げる日帰り滞在が可能とのことだ(2,000円)。風呂とともに評判だという洒落た創作料理は、すべて女将さんの手作りで、鄙の宿とは思えないセンスを感じる味わいはリピーターたちの間でも評判だ。
何よりも、賑やかさと一線を画す環境のなか、気軽な入浴料金で、しかも、いつ訪れてもほぼ独占状態で風呂が堪能できるのが魅力だ。夫婦での温泉湯治や家族旅行はもちろん、山々が彩りをまとうこれからの季節なら、山岳道路の観光ドライブやトレッキングがてらの拠点にもいいだろう。自然のリズムに抱かれ暮らすように楽しむひとときをぜひ、それぞれの心に寄り添う湯宿で満喫していただきたい。高湯が用意する寛ぎは、その誉れ高き湯質同様、深くあたたかく果てることがない(笑)。
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