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高湯温泉紀行
高湯温泉紀行
晩夏の高湯遊び・安達屋と吾妻小富士
2015/09/某日
私邸気分で愉しむ、貸切風呂の宿
突然だが、自分に順番が回ってくるという意味で使われる“お鉢が回る”という諺の由来をご存知だろうか(笑)。ここで言う“お鉢”とは、飯櫃(めしびつ)のこと。大人数で食卓を囲んだ昔、飯をよそう順番がなかなか回ってこないことから生まれた言葉だ。
季節はまもなく新米シーズン。頭を深く垂れる稲穂の景色に、そんなたわいのない会話を連れと交わしながら車を高湯へと走らせる。緑がまだ残る9月。紅葉シーズンまでしばし静けさを取り戻した吾妻の山里に、今回は福島の“飯櫃”ならぬ“すり鉢山”こと、「吾妻小富士」を訪ねる計画だ(笑)。
温泉に近付くにつれ、図らずもまた自称、雨男の本領発揮(笑)。鈍色の空がどんよりと重さを増し、やがて車内に朗々と雨音が響き始めた…。不機嫌になる連れの傍らで、開き直りの笑いを押し隠す(笑)。
到着した「安達屋」で、傘を持って出迎えてくれた宿の方に「またお世話になります」と挨拶を交わし、強まる雨足に小走りで中へ。ここを訪れるのは2度目(詳細はこちらのブログを参照)。時の流れを一気に引き戻すランプの灯りもやさしい館内は、あの時と同じ、旧交をあたためる知人宅のよう。チェックインの後、囲炉裏の炭火に手をかざしながら、おもてなしの甘茶でまずは一服。ラウンジの一角に設けられた「花ゆかた」コーナー(レンタル料300円)では、母娘らしい先客が柄と帯の組み合わせで悩んでいる。「安達屋」は、懐かしさの延長にある非日常感の演出が巧みだ。
案内された部屋は貸切露天風呂にも近い場所。この宿に泊まる醍醐味は、何といっても、その贅沢な風呂施設にある。館内には男女別の内湯の他に、名物の大露天風呂と貸切風呂が3ヶ所。もちろん、そのすべてが白濁した自慢の硫黄泉の源泉掛け流し。まずは、改装したばかりの貸切風呂「ひめさゆり」へ。
シックな色合いで統一された風呂は、2人連れや、ちいさな子供のいる家族に丁度良いコンパクト感。内湯スタイルだが、開け放した窓の外には坪庭も見え、私邸気分を満喫できる佇まいだ。館内の貸切風呂は利用料も無料(!)。そのまま単身、はしご湯した男性用内湯「不動の湯」は、映画のセットを思わせるレトロな造りで私の密かなお気に入り。先客なしの独り占めも手伝い、雨の憂いも忘れどっぷりと楽しんでしまった(笑)。
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秘蔵のぬる湯と創作料理、静心山荘
2015/03/某日
「静心山荘」は、その名がすべてをあらわす、まさに静けさと向き合う秘蔵の湯宿。玄人ファンが多いことでも知られる宿は、吾妻屋の先にある坂道を100m程登った先にひっそりと佇んでいる。アプローチは車1台がやっと通れる程の道幅で、雪が迫る冬は急カーブで身動きができなくなることもあるらしく、何度か重機による救出劇?(笑)が行われたこともあるという。
山の斜面に建つ宿は、幾つかのログハウスが廊下で繋がる造りだ。特徴は何といっても自然林を擁する4,000坪もの広い庭だろう。緑の季節には別天地のような美しい景色に包まれ、爽やかな高原の風のなか、屋外での食事も楽しめるという。
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創業140年の山の湯宿「吾妻屋」
2015/02/某日
今昔ゆかしき宿、吾妻屋
「 雪で大変でしたでしょう 」そう客をねぎらう女将に「 雪だから来たんだよ。雪が見たくて 」と笑う常連らしき客の声。屋根の積雪は軽く1mを超えているだろうか。女将曰く、これでもこの季節にしては少ないほうなのだという。
厳しくもやさしい吾妻連峰の自然に抱かれ、静謐な白い景色に覆われる高湯の冬。清らかなその世界に逢いたくて、先客と同じ思いで私たちもまた此処に来ている。
訪れたのは「 吾妻屋 」。わずか10室の客室に対し、貸切を含め8つもの風呂のある宿は、まさにどっぷりと高湯の湯と向き合える贅沢さだ。予約時に伺った館主の話によれば、ちょうど昨年末に内湯を改装したばかりらしい。“ 冬のお花見をどうぞ ”という、謎めいた言葉も気にかかるところだ(笑)。
齋藤茂吉も愛した吾妻の秘湯
“ 今昔ゆかしき宿 ”と銘打った宿は、高湯の歴史を語る宿のひとつだ。創業は140年前の幕末の頃。明治時代に描かれた古い絵地図のほぼ中央にも“吾妻屋”の名がみてとれる。吹き抜けとなったロビーギャラリーには、その歩みに相応しく、約390年前の古文書をはじめ、山岡鉄舟や伊東博文、勝海舟などの著名人や禅師の書画がズラリと並ぶ。
なかでも明治から昭和にかけて活躍した文人、齋藤茂吉は吾妻の山をこよなく愛し、大正5(1916)年、友人の門間春雄と共に吾妻屋に逗留し
《 五日ふりし雨はるるらし山腹の吾妻のさぎり天のぼり見ゆ 》
《 山の峡わきいづる湯に人通ふ 山とことはにたぎち霊し湯 》
の歌を詠んでいる。
今も昔も変わらぬいで湯が取り持つ旅の縁。その歴史の延長線上にいま佇んでいることに感慨を覚えながら、厳寒の季節に一層荒々しく立ちのぼる高湯の湯煙を眺める。
案内された部屋は黒い柱に竹の腰壁が、民芸調の雰囲気を奏でる落ち着いた和室。壁に描かれた吾妻山の絵が目を引くインテリアには、囲炉裏の名残を残す自在鉤や古い行火、網代編みの地板など、歴史を刻む宿ならではの懐かしい面影が漂う。「 きれいねぇ 」と連れがうっとりと腰を落とす縁側からは、繊細な水墨画のような雪景が広がっていた。
「 そろそろ行ってみますか 」しばし部屋でのんびりした後、相槌を打つ彼女とともに、いよいよ宿の真骨頂たる風呂めぐりへ繰り出すことにした。
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泉質異なる2つの温泉宿めぐり「のんびり館」
2014/09/某日
吊り橋のある秘湯の一軒宿、信夫温泉 のんびり館
磐梯吾妻スカイラインに、ひと足早い紅葉便りが届く9月下旬。山峡を吹き抜ける風にかすかな秋の気配が漂うなか、高湯に風雅な一軒宿があると聞き、早速、向かうことにした。
福島西ICから車で約20分。高湯街道を登りはじめてすぐ、道沿いに「信夫(しのぶ)温泉」の看板が見えてくる。資料によれば、信夫温泉は1930 (昭和5)年 に発見された、比較的新しい温泉らしい。高湯温泉と目と鼻の先の距離にあるものの、未だ温泉ガイドブックにも掲載されていない、知る人ぞ知る秘湯なのだという。
案内に沿って道を折れた先には、30台程が停ることができる広い駐車場がある。目指す「信夫温泉 のんびり館」はその奥だ。実は、高湯温泉中心部にも同名の宿がある。“ のんびり館 ”は信夫温泉と高湯温泉、さらに沼尻温泉と郡山市にも居を構えるグループ企業らしい。
「信夫温泉 のんびり館」の一番の特徴が、何といってもそのアプローチだ。宿は“ 幸福(しあわせ)橋 ”と名付けられた長さ50m程の吊り橋を渡った先にある。「ちょっと、別天地気分ね」と、喜ぶ連れの後ろを歩きながら見下ろせば、高低差はざっと30m程あるだろうか。眼下を流れる渓谷と巨岩のダイナミックな景観は壮観だ。
宿は山あいに溶け込む、こじんまりとした低層の外観だった。今宵の旅の我が家は、贅沢にも、和モダンな佇まいの専用露天風呂付の部屋。大きな窓の外には、あふれる緑を独り占めにする湯船が、美しい森の翠を抱いている。絵画のようなその景色に見惚れつつ、迫る秋の日没に急きたてられるまま、まずは宿の自慢の風呂へ。
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大切な人と過ごしたい宿「旅館 ひげの家」
2014/05/某日
寛ぎたおやかな渓流の宿、ひげの家
走り梅雨を思わせる雨模様とはいえ、道沿いで目にする緑はつややかな瑞々しさにあふれ、目に麗しい季節。標高750mの高湯温泉の新緑は、麓より2週間程遅い。郷全体が初々しい彩りで包まれる頃合を見計らい、以前から気になっていた宿へと車を走らせる。
その名もユニークな「旅館 ひげの家」は、温泉街の中程、源泉が流れ込む須川渓谷に面した場所にあった。重厚な門構えに“日本秘湯を守る会”の提灯を掲げた佇まいは、ししおどしを配した日本庭園が風流な趣きを奏でている。山野草やツツジが咲く庭を愛でながら、京の料亭を思わせる引き戸をくぐり早速、中へ。
アジアンテイストの家具がレイアウトされたロビーラウンジは、秘湯のイメージを覆す明るくモダンな雰囲気。フロアから続くウッドデッキからは、中庭と渓流が見渡せる。「いい眺めじゃないか」と、連れに語りかければ、彼女は早くも傍らの可憐なもてなしに夢中のようだ(笑)。入口の水盤に活けられた春咲秋明菊や、ひときわ目を引くジャーマンアイリス、一輪挿しの二輪草や椿など、確かに館内のいたるところに季節の野花が、楚々とあしらわれている。伺えば、これらはすべて花好きの女将や女性スタッフの手によるもので、冬場を除き、家族が花壇で育てているとのことだ。「白花露草って言うんですって」と、女将から教えてもらった花の名を嬉しそうに話す連れと向かった部屋は、広縁から渓谷が見下ろせる程よい広さの和室。大きな窓から滑り込む、潤いを帯びた山の精気が、ここから始まる素晴らしい旅のひとときを予感させてくれる。 [全文を表示]
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