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高湯よもやま話
高湯温泉の歴史や出来事など…
吾妻連峰高湯温泉の旅
2008/01/01 | 永山博昭
昭和29年6月~吾妻山抜粋記事
半世紀以上も前の文章であるが、吾妻山と高湯温泉の魅力をよく伝えている紹介文として掲載する。また将来の高湯温泉の方向性として、温泉を大事にしてそれを供給してくれる吾妻の自然への感謝を忘れないためにも、今も変わらぬ高湯先達の記録として残したい。なお磐梯吾妻スカイライン開通は昭和34年である。
福島、山形、新潟の三県に跨る国立公園磐梯朝日国立公園は、北海道の大雪山国立公園に次いで本州最大面積のもので、朝日岳、飯豊連山、吾妻・安達太良連峰、磐梯猪苗代湖の四園地に分かれている。
この広大な国立公園地域の中で吾妻連峰は最も豊富な自然観光資源に恵まれているといってよい。
観光地として成立するには自然的、人文的に何等かの魅力がなければなるまい。吾妻連峰の自然的観光資源をあげるなら、その殆どが国有林の未開発地域でブナを主体とする温帯林と、これを点綴する高山植物帯の広大な原生林の存在であろう。また連峰の至る処、豊富な温泉群の存在は他の国立公園に冠絶しており、吾妻連峰が今後無限の誘引力を持つ所以である。
その全ての温泉は規模に大小の相違はあっても、環境風光共に山岳温泉としての魅力を漂わせた山の湯である。これらの温泉地を人為的条件のもとに考えるなら交通路線、宿泊施設等において充分とはいえないが、いわゆる観光的施設を持った温泉地では味わえない自然の美しさを持った温泉地で、山の旅を愛される方には今日の吾妻温泉群ほど懐かしい環境を残しているところはない。
達路を利用して温泉群を探勝するなら奥羽山脈中の名峰吾妻連峰の美しい山容は、生涯忘れることの出来ない山の旅になるだろう。
いま超えて来た連峰が霞みに包まれて青磁色に浮き出すのを、山の湯にひたりながら眺めた昔の想い出が胸に蘇る。奥深い観光資源を包蔵して、その殆どが未開のままに残されている吾妻連峰は、中部山脈が持つ諸峰のように峻嶮な山容ではない。
高山樹林に掩われた温和な山容が広大な地域に亘って連綿と起伏する美しさは、寧ろ女性的な陰影の深さを教えてくれる。それが中部山脈に比して奥羽山脈が一部の岳人に軽視される理由でもあるが、長い年月懐かしんで来た吾妻連峰を云うなら、特に登山用具を要さない簡単な服装で夏山の吾妻縦走が楽しめるということで、これが広い意味での愛好者を抱擁できるゆえんである。
戦後は女性の山岳愛好家が、軽装で吾妻縦走の山旅をされる姿が激増していることも吾妻を愛する編者の感謝しているところでもある。これは多くの愛好者を持つに従って、吾妻原生林の美しさがようやく理解されて来たことであり、次いでこれを囲とする温泉群のよさである事と思われる。
ふた昔前の東京人にとって信州の諸温泉は明らかにあこがれの山の湯であった。一般的には素朴な山の湯として浪漫的な想いを抱いており、当時の若い人にしてこの方面の温泉に想い出を持たない人は少なくないだろう。
山の湯と云えば信州の旅を想うほど当時にして既に普遍化し俗化していた。当時余程の温泉通でないかぎり東北の湯を尋ねる人は少なかった。やはり何となく田舎くさく貧乏臭く、浪漫的な山の湯を東北に感じる若い人は少なかったようである。
いま東京を中心に山の湯のよさを探ねるとするなら、吾妻温泉群をおいて他に何を求めることが出来るだろう。吾妻連峰の温泉群が持つ諸要素は、山の湯の美しさを余りにもよく残した代表的な山岳温泉群なのである。
これらの温泉が山の湯を愛する人々から特に注目されるようになったのは、国立公園の指定を受けた昭和25年頃からといってもよく、最近この地を訪れる都会客が俄に増加したのも、広大な地域に群落する温泉郷の環境のよさ、風光の美しさを知る者からは当然な現象ではある。
愛惜の情、切なるものがある吾妻諸温泉が、その連峰と共に眞價を認められて来たのは何よりも喜ばしく、これらの地に旅する方の伴侶ともなり、あるいはいつか旅しようと考える方の参考になれば小頁の目的は達するのである。
昭和29年7月1日発行~国立公園吾妻連峰温泉の旅より<安部武編>
【写真上】当時と変わらぬ吾妻小富士
【写真下】140年前と変わらぬ玉子湯の湯小屋
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